217【インドの花】

20代前半、バックパッカーで旅をしていたとき、インドのヴァナラシで一人の少女と出会った。8歳か9歳くらいの物売りの女の子。花とロウソクをガンジス河に流しませんか。と売り歩いていた。
 
2ヶ月間東南アジアを旅をしていて、
正直物売りにはうんざりだった。
特にインドに入ってからはひどかった。
「バクシーシ、バクシーシ(お恵みを)」の嵐。
 
どうやってこの旅行者からお金を取ろうか
あの手この手を使ってくる。
向こうも生活かかってるから、
しつこさややり方が半端ない。
断るだけでも労力を使う。
 
もう辟易していた僕は
「お金は持ってない」とウソをついた。
ガンジス河を見に来ただけだから、
貴重品はホテルに全て置いて来た、と。
 
さすがに払うお金を持ってないなら、
その少女も諦めるだろう。
 
 
そう思ってたら、
少女はこう言った。
 
「あなたは遠くから
旅をして来たのでしょう。
これは私からのプレゼントです。」
 
そう言って売り物の花を一つ
プレゼントしてくれた。
 
 
僕は、あっけに取られた。
 
みんな、むさぼろうとしている人たち
だと思い込んでいたのに、
 
思いがけない優しさに
頭が止まってしまった。
 
 
実はお金を持っていることを
言い出せないまま、
もらったロウソクに火を灯して
ガンジス川に流した。
 
 
その後、僕はその少女を探したけど
見つからなかった。
その商売を取りまとめる
人にも会って
少女を探してるって言ったけど
わからなかった。
 
 
それからは
違う子どもに、同じ商品を売られたら
必ず買ってあげた。
 
2個買って、1個は自分に。
1個はその売っている子どもに。
これは「あなた自身のために」
と渡した。
 
その行いが、いつか
自分がウソをついた少女へ
届くよう祈りを込めて。
 
 
インドの喧騒の中で
いつしか荒んでしまった心。
 
その心を
少女は優しさで包んでくれた。
 
その子たちの売っている花は、
今日もガンジス河を流れている。