265【ないもの】

道を歩いていたら突然、幸福感に包まれた。それは、ないものに目を向けた瞬間だった。
道を歩いていて、後ろから銃を突きつけられることがない。横断歩道を渡っていて、地雷を踏むことがない。空を見上げていて、爆弾が降ってくることがない。なんと平和に、目的地まで行けるんだろう。
 
舗装された道路は土埃が舞うことはない。
落ちたら怪我する穴も空いてない。
襲われる野犬もいないし
一寸先が見えない暗闇の道もない。
 
何もなく、歩いていられる
かけがいのない日常。
 
なんて幸せなんだろう。
 
 
あるものだけでなく、
ないものに目を向けよう。
 
ないものたちの輪郭の中に
尊い今が浮かび上がってくるんだ。