285【お皿】

よく行ってたお店での出来事。僕はそこのマスターが好きで、一人でよく食べに行っていた。たまにお酒を頼んで、お客さんが少ない時は、マスターと話しながら飲んでた。そこには一人の従業員がいた。ある日行った時、その人の様子がおかしかった。うまく歩けないようで、フラついていた。大丈夫かな?と心配になった。僕以外のお客さんが帰ると、その人はお皿を片付け始めた。でも、足がおぼつかない。

マスターもそれを見て

○○さん、やらなくていいから!

と言っていた。

そして続けてマスターは言う。

○○さん、

もう帰って。

そんなんじゃもう

仕事出来ないでしょ。

隠れて飲んでるの知ってんだから!

あららー。

酔っ払ってるのねー。

そりゃ帰ってと言われるわー。

でもその人は、

フラフラしながらお皿を重ねて

流しに下げていく途中に

よろけて落としてしまった。

ガッシャーン!

おいおい、大丈夫か?

マスターが僕に

すいませんね。

と言いながら、

その人の元に行く。

その人は、

割れたお皿を拾おうとしている。

でも

酔ってるから危なっかしい。

それを見てマスターが言う。

怪我するから。

片付けなくていいから。

危ないから。

やらなくていいから。

怪我したら大変だから。

僕は聞いてて、

感動した。

だって、僕だったらね。

仕事中にこっそり酒飲んで

店のお皿割った従業員なんかいたら

何やってんだー!

だから言ったろう!

店のもの壊しやがって!

もう帰れー!!

と怒鳴るよ。

だけど、

そのマスターは。

危ないから。怪我するから。

と、

お皿を割ったことには

一言も触れず。

その人の心配事しか言わなかった。

僕は、ただその声を聞いていた。

その店は、今はもう

閉めてしまった。

そしてマスターが今

どうしてるかはわからない。

でも、もしまたどこかで

店をやってるなら

ああいう人の店で

僕は食べたい。

#フォーチュンギフト