【黄金の河】99

今日は長文です。
バックパッカーでインドへ行ったときの話。

23歳のとき、インドへ行った。
2ヶ月間、ヴェトナム、ラオス、タイ、カンボジアと周って、もう一人旅も慣れたころだった。

コルカタの街に降り立って駅に向かった。

ガンジス川を見るために
聖地ヴァナラシへ行くんだ。

駅ではさっそく
物乞いの子どもたちに囲まれた。
「バクシーシ、バクシーシ」
と足にすがりいつまでもついてくる。

長蛇の列に並んで窓口に行くも
言葉が通じず追い返された。
また並び直して
ヴァナラシ、ヴァナラシと連呼して
やっと切符を手に入れる。
ヴァナラシまで約400円

??

東京大阪間くらいあるはずだけど、
こんな安くていいの?

どうせわからん、とにかく乗ろう。

ホームに行くと巨大でわからない。

infomationの看板を見つけて行くも
英語は通じず。

なんとかコミュニケーションを取る。
あそこのホームの次の電車に乗れ。
4時間ほどで着く。

ホームで待った。

ぼんやりはしてられない。

「どけどけー!」
ホームの真ん中を
俺の常識を超えた荷物満載の荷車が
轢かれたら死ぬ速度で走り抜けていく。

そのエネルギーに圧倒された。
もうアジアなんて慣れたもんだ
と思った自分は愚か。

インドは、全くの別世界だ!

打ちのめされた。
俺はただ立ち尽くしていた。


何時間も待っても列車は来ない。

売店の兄ちゃんが英語で話しかけてきた。

「ずっと待ってるけど、どこ行くんだ?」

「ヴァナラシだ。
このホームに来る次の電車なんだが
全然来ないな」

「お前、放送聞いてなかったのか?
発車のホームが変更になったんだよ」

ヒンズー語の放送だし、わかるかよ!

「それはどこだ?」

「ほら、あれだ」

指の先にあったのは、
まさに今出発したところだった。

!!

猛ダッシュ!

動きだしている電車に飛び乗るという体験を
生涯で初めてやった。

とりあえず適当なところに座って
落ち着こうと思った。
もうすでに俺は打ちのめされていた。

日本に帰りたい。
でも、帰りの飛行機もない。

俺は生きて帰れるだろうか?


列車は何時間乗っていても着かない。
やがて夜になった。

俺が乗っていた席は指定席だったらしく

夜にその席の人が乗ってきた。

ここは私の席だと。

あなたが持っているのは2等車両の切符だ。
ここは1等車両だ。


そしてその人が教えてくれた。

この列車はヴァナラシには行かない。

「何ーー!!!」

時刻表を調べてくれて、
筆談しながら説明してくれた。

次のホームで降りろ。
そして向かいのホームに来る
午前1時発の列車に乗れ。

夜のホームに降り立つと
人々がホームに寝ている。
ベンチとかじゃない。
ホームに横になって寝てるんだ。

そして一角に軍隊がいた。
ホームに小銃をずらっーと並べて
初めてあんなに大量の武器を見た。

夜11時ごろ、電車が入ってきた。

ホームで寝ていた人たち一斉に起きて
電車に群がった。

電車のドアは鍵が閉まっていた。

みんなが叫び、押し、叩く。
あたりは喧騒に包まれた。

一人が窓をこじ開けて入り、
中からドアの鍵を開けた。

人の波がどっと入っていく。
エネルギーが凄まじすぎて、
近寄れない。

あとから
軍隊が入って行った。

そして、この車両は俺たちが使う!
と他の乗客を追い出した。

蹴落とす、という表現は聞いたことあるが
文字通りだった。
乗客は暴力によって放り出された。

怖い!怖い!
何がどうなってるの!?

しばらくして、考える。
俺も乗らなきゃ。

2等車両は自由席。
貧困層ののる車両。

すでにいっぱい。混みすぎ。
東京の満員電車の比ではない。

人の上に人が重なり、
上の荷物置きの網にも人が乗っている。

その中を物売りがめちゃくちゃ
強引に入って行って売ってくる。
「チャーイ!チャーイ!」

なんてパワーだ!

もう参りました。
もう疲れたよ。

仕方なく
トイレの横の、ゴキブリが這う廊下にザックを降ろし、その上に座った。


ここで眠るか。


そうすると、
3人席に4人座ってた人たちが、
さらに詰めてくれた。

ここに座りなと。

ありがとう。

なんとかお尻半分座ることが出来た。

コルカタの空港を出てから
一人の外国人も見ていない。

インド人の独特な黒さに
目と歯が白く際立つ。

孤独。

そもそも本当にヴァナラシに着くのか?

不安。

何も食べてない。

空腹と疲労。

まどろんでいると
俺のザックに刺してた水がない。

向かいに座った人が飲んでる。
そこにいた人たちがまわし飲みして
半分になって返ってきた。


何!?何!?
みんな何してくれてんの!?


後日、ものを共有するという
習慣があるのがわかったが
その時はただひたすら怖かった。

恐怖。

もう眠れないよ。

夜も更け、トントンと叩かれた。

上に登れと。

荷物置きだ。
訳のわからぬまま荷物置きに上がると

まるでハンモックのようだった。

15分くらいすると、
こんどは降りろと。

何このローテーション!

わからない。

困惑


インドのエネルギーに押し潰されて、
俺は矮小だった。

世が明けて、新たに人が乗ってきて
その人たちに席を譲ってぼんやりと
外を見ていた。


恐怖、疲労、孤独、不安。

色んな感情が混じってもう頭は
働いてなかった。


そのとき、

急に視界が開けた!


目に入って来たのは光!

海のような
あまりにも巨大な水が
目の前いっぱいに広がる!

日本では考えられないよう
想像を絶する大河!!

茶色く濁った水が
朝日を浴びて黄金に輝いていた!

誰かが呟いた
「ガンガー」


ガンジス川だ!!!

着いた!!!!


安堵と歓喜の中で見た
黄金に輝くガンジスの大河。

あの神々しく輝く景色は
今でも脳裏に焼き付いている。

旅の中で最も忘れられない風景だ。


辛い中を越えた先にこそ
普段は見られない感動の光が待っている。
苦しんだからこそ見える景色がある。

ぜひ、あなたもそういう
景色に出会ってみて欲しい。

心が震える景色に。

あなたの黄金の河はなんですか?